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退職のものさし 辞め方の、ものさし。

辞める決断ができない朝の名言7本。迷っているのは、動いている証拠です

迷っているのは、あなたが動いているからです。

決められない朝が続いても、決断力の問題ではありません。天秤に載せているものが多いだけです。まず、載せなくていいものを降ろします。

朝の結論を3行で

  1. 迷いの長さは、決断力とは関係ありません。 天秤に載っているものが多いだけです
  2. 載っているものを、変えられるもの/変えられないものに分けます。 変えられないほうは降ろします
  3. 残ったものだけで、今日できる一歩を1つ選びます。 全部を今日決める必要はありません

体が動かない朝に、ここから読み進めるのはしんどいと思います。7本のうち1本だけ読んで閉じてもらってかまいません。

下の7本は、出典を確かめられた言葉だけです。「一次」は原典まで、「二次」は図書館の記録や専門家の解説まで当たったという意味。外国語のものは原文を確認して、日本語は当サイトで訳しました。確かめ方の話と、落とした偽名言は退職に効く名言11本にあります。

なお、眠れない・食べられない状態が2週間ほど続いているなら、名言より先にこころの耳(厚生労働省・無料・名前を出さずに使えるものがあります)へ。名言でなく相談に回したほうがいい目安は、このページの終わりにも置いてあります。

決められない朝に効く名言7本

1.「人は務めている間は、迷うに極まったものだからな」

Es irrt der Mensch, so lang er strebt.

人は務めている間は、迷うに極まったものだからな。

ゲーテ『ファウスト』第一部「天上の序曲」。森鴎外訳を青空文庫で本文照合。一次/PD

『ファウスト』の冒頭近く、悪魔メフィストフェレスがファウストの魂を賭けようと持ちかける場面で、神の側が返す言葉です。人間は努力している限り迷う——だから迷いは失格の証明ではない、と最初に宣言してから物語が始まります。

これを決断できない朝に置くと、天秤の見え方が変わります。迷いは、決めようとしている人にしか発生しません。もう辞めると決めた人も、絶対に辞めないと決めた人も、迷いません。迷っている時間は、動いていない時間ではないのです。

朝に置き換えると:「まだ迷っている自分」を責めるのをやめると、そのぶんの体力が判断に回ります。

2.「物事には、われわれの力の及ぶものと、及ばないものとがある」

Of things some are in our power, and others are not.

エピクテトス『提要(エンケイリディオン)』第1章(2世紀)。原文はStandard Ebooks版(George Long 訳)で照合。日本語訳は当サイト。一次/PD

エピクテトスは奴隷の身分から解放され、哲学を教えた人です。その人が書いた本の1行目が、これでした。力の及ぶものは自分の判断や行動、及ばないものは体や財産や評判だ、と続きます。

古い本ですが、使い方はとても実務的です。混ざっているから重いのであって、分けてしまえば片方は考える必要がなくなります。決められない朝の天秤には、たいてい「自分にはどうにもできないもの」が半分ほど載っています。

朝に置き換えると:上司の性格、会社の方針、同僚がどう思うか。これらは全部、力の及ばない側です。降ろしていい荷物です。

決断の天秤を、いったん分けてみる

エピクテトスの分け方を、退職の悩みにそのまま当ててみます。この表は判定をしません。載せるものを減らすためだけの表です。

よく天秤に載っているものどちら側か
上司の性格・機嫌変えられない
会社の評価制度・方針変えられない
同僚や家族が、どう思うか変えられない
引き止められるかどうか変えられない
業界の景気変えられない
有給の残りを数えるかどうか変えられる
求人を見るかどうか変えられる
退職の意思を、いつ・誰に伝えるか変えられる
手続きの順番を調べるかどうか変えられる
どこに相談するか変えられる

左の列で、変えられない側が多いほど、決断は重くなります。重さの正体は、決断の難しさではなく、荷物の量でした。

3.「大事を思ひ立たん人は、去り難く心にかからん事の本意を遂げずして、さながら捨つべきなり」

ちょっとこのことをすませておいて、ついでにあのことも片をつけて(中略)などと思っていたのでは、よんどころないことがあとからあとから出てきて、そんなことが尽きてしまう日もなく、思いきって実行する日があるものではない。

吉田兼好『徒然草』第五十九段(14世紀前半)/佐藤春夫訳・青空文庫で本文照合。一次/PD

兼好が書いているのは仏道に入る決心の話で、転職の話ではありません。それでも、先送りの仕組みだけは700年前から同じでした。

「用事が減ってから動く」と決めた瞬間に、用事は減らなくなります。片づけた分だけ次が積まれるので、条件が満たされる日は構造的に来ません。兼好はさらに、火事から逃げる人が「もうちょっと」と言うか、と畳みかけます。命がかかれば、恥も財産も置いて逃げる。順番の問題ではなく、優先順位の問題だと言っています。

朝に置き換えると:「引き継ぎが終わったら」「後任が決まったら」「繁忙期を越えたら」。この条件を1つ外すだけで、決断は今日の話になります。

4.「あなたの時間は限られている。他人の人生を生きて無駄にしてはいけない」

Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life.

スティーブ・ジョブズ、スタンフォード大学卒業式スピーチ(2005年6月)。大学公式チャンネルの全編で確認。日本語訳は当サイト。一次/著作権存続(引用は1文のみ)

この直後にジョブズが挙げるのは、「他人の考えた結果の中で生きること」「他人の意見の雑音で、自分の内なる声をかき消されること」の2つです。時間の話をしているようで、実は誰の判断で生きるかという話をしています。

スピーチのこの部分は、がんの告知を受けた経験のあとに置かれています。毎朝鏡を見て、今日が最後の日でも今日やることをやるかと自分に問う、という話の締めくくり。景気のいい成功談の中の一節ではありません。

朝に置き換えると:「親が心配するから」「同期がまだ辞めていないから」で残っている時間は、他人の人生の側に入っています。

5.「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」

為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり

上杉鷹山が家臣に与えた歌。表記と出典の整理はレファレンス協同データベース(国立国会図書館)。二次/PD

気合いの歌として使われがちですが、詠んだのは財政の傾いた米沢藩を立て直した藩主です。産業を興し、支出を削り、制度を組み替えた人。精神論ではなく、手順の話として読めます。

決められない朝に効くのは、「決める」と「為す」を切り離しているところです。この歌は決断を求めていません。求めているのは、手を動かすことだけ。求人を1件開いた人と、開かなかった人の差は、決断力の差ではなく、開いたかどうかの差でした。

朝に置き換えると:辞めるかどうかを決めなくても、今日できることはあります。決断を待つ必要はありません。

6.「千里之行、始於足下」(千里の行も足下より始まる)

千里之行、始於足下。

『老子』第六十四章。原文は中國哲學書電子化計劃で確認。一次/PD

この章の前半は、「安定しているうちは保ちやすい」「兆しのうちなら対処しやすい」と、小さいうちに手を打つ話を繰り返しています。有名な一句は、その締めくくりに置かれた実務の話でした。

一歩の話がありがたいのは、一歩なら今日の体力で足りるからです。決断の全体を今日運ぼうとするから重い。分ければ、朝のうちに1つ運べます。

朝に置き換えると:今日の一歩は、有給の残日数を確認する。それだけで終わりにしていい。明日また一歩あります。

7.「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張」

行蔵は我に存す。毀誉は他人の主張。我に与らず我に関せずと存候。

勝海舟が福沢諭吉「瘠我慢の説」への返答として送った書簡(明治25年/1892)。PHP研究所・歴史街道の解説二次/PD

幕臣だった勝が明治政府の要職に就いたことを、福沢諭吉は批判しました。原稿を送りつけられた勝の返事がこれです。反論もせず、謝りもせず、評価の土俵から静かに降りている。

決められない朝に残っている最後の重りは、たいていこれです。辞めたあとに、何を言われるか。勝の分け方でいくと、それは他人の持ち物でした。持ち主が違うものを、こちらの天秤に載せる義理はありません。

朝に置き換えると:引き止めも、陰口も、心配する顔も、全部「毀誉」の側です。行くか留まるかは、あなたの側にあります。

今日の一歩を、1つだけ選ぶ

7本読んだあとに残るのは、たぶん決断ではなく、少しの余力だと思います。それを1つの行動に使ってしまいましょう。

  • 有給の残日数を確認する(給与明細か、勤怠システムに出ています)→ 数え方は有給は使い切って辞められる
  • 退職の意思を伝える時期を、カレンダーに仮で置く → 期間の決まりは退職は法律上2週間でできる
  • 求人サイトを3件だけ開いて、閉じる
  • このページの天秤の表を、紙に書き写してみる

どれも、辞める決断をしていなくてもできます。決断の前に材料をそろえるほうが、順番として楽です。数字と条文が手元にあると、天秤の「変えられる」側が急に具体的になります。

あわせて読む

よくある質問

何か月も迷っています。決断力がないということですか
迷いの長さと決断力は関係がありません。ゲーテは『ファウスト』で「人は努力している間は迷うものだ」と書いています。迷いが続くのは、天秤に載せるものが多い証拠です。このページでは、天秤に載せるものを「変えられるもの」と「変えられないもの」に分けて減らす方法を書いています。
辞めるべきかどうか、判断してもらえますか
このサイトは、辞める・辞めないの判断をしません。判断できるのはあなただけで、その材料をそろえるのがこちらの役目です。もめる要素(未払い・ハラスメント・損害賠償の話が出ているなど)がある場合は、弁護士か、お住まいの労働局の総合労働相談コーナーへ持っていってください。
決めたあと、何から手をつければいいですか
順番は、有給の残日数を数える、退職の意思を伝える時期を決める、の2つが先です。有給は労働基準法39条の権利で、会社の承認は要りません。退職の意思は、民法627条により伝えてから2週間で成立します。どちらもこのサイトに条文つきの解説ページがあります。

出典

  1. 青空文庫 ゲーテ『ファウスト』(森鴎外訳)天上の序曲(確認日
  2. Standard Ebooks『Short Works』Epictetus(George Long 訳)The Enchiridion 第1章(確認日
  3. スタンフォード大学公式チャンネル「Steve Jobs' 2005 Stanford Commencement Address」(2005年6月・全編)(確認日
  4. 青空文庫『現代語訳 徒然草』(吉田兼好/佐藤春夫訳)第五十九段(確認日
  5. 中國哲學書電子化計劃『老子』(道徳経)第六十四章 原文(確認日
  6. レファレンス協同データベース(国立国会図書館)上杉鷹山「為せば成る」の出典整理(確認日
  7. PHP研究所 歴史街道「行ないは自分が、批評は他人がする―勝海舟の人生訓」(確認日
  8. 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(確認日
  9. 厚生労働省「こころの耳」働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(確認日