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退職のものさし 辞め方の、ものさし。

退職は法律上2週間でできる — 民法627条と、就業規則「1か月前」の関係

2週間で辞められます。民法627条1項です。

申し入れた日から数えて2週間。その日が来れば、会社が同意していなくても雇用は終わります。厚生労働省も労働局も、同じ説明をしています。

月給制でも年俸制でも同じです。2020年の民法改正で、そこははっきりしました。

急いでいる人のために、この面の答えを先に4つ並べます。ここだけ読んで閉じても、必要なことは持って帰れます。

  • 数え方 — 言った日は数に入りません。翌日から14日目。土日も祝日も年末年始も、そのまま1日として数えます
  • 月給制・年俸制 — 期間は変わりません。「翌月末まで」「3か月前」は2020年3月31日までの法律の話です
  • 就業規則の「1か月前」 — ここだけは、公的な説明の中でも答えが割れています。選び方を3つに分けました
  • 契約期間が決まっている人(契約社員・パート) — この2週間は当てはまりません。出口は別に3つあります

上から順に読まなくて大丈夫です。自分に要るところだけ、拾っていってください。

「2週間」は、どこに書いてあるのか

民法627条1項は、こう書かれています。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

読むところは3つです。

  • 「各当事者」 — 会社からも、あなたからも、という意味です。労働者側だけに条件が付いているわけではありません。
  • 「いつでも」 — 時期の制限がありません。繁忙期でも、入社直後でも、条文の側では区別していません。
  • 「二週間を経過することによって終了する」 — 「終了させることができる」ではなく「終了する」。承諾を条件にする書き方をしていません。

読んだ官公庁の説明も、3つとも同じ向きでした。

  • 厚生労働省「確かめよう労働条件」 — 契約期間が定められていない場合について、退職の申し入れをすれば2週間の経過で辞められると案内しています
  • 大阪労働局のよくあるご質問 — 期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れができ、申し入れの日から2週間で終了する、会社の同意は必要ない、と書いています
  • 長崎労働局の教材 — 退職の形を「合意解約」「辞職」「契約期間の満了」「定年」「解雇」に整理したうえで、このうち辞職は2週間の予告期間を置けばいつでもできる、と説明しています

つまり「辞めさせてもらう」ではなく「辞める」。日本語としては小さな差ですが、条文が置いているのはこちらの形です。

月給制でも年俸制でも、2週間です

ここが、ネットの解説といちばん食い違うところです。

いまも検索すると、「完全月給制の人は月の前半までに申し出ないと、翌月末まで辞められない」「年俸制は3か月前」という説明が出てきます。

これは2020年3月31日までの民法の書き方にもとづくものです。現行法では、労働者から辞める場面に当てはまりません。

民法627条2項の改正前後(2020年4月1日施行・法務省の債権法改正)
見るところ改正前(2020年3月31日まで)改正後(2020年4月1日から)
2項の書き出し「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる」「期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる」
誰にかかる規定か主語がなく、会社にも労働者にもかかると読めた使用者からの解約申し入れだけ、と明示された
月給制で辞めるとき「当期の前半に申し入れ」という説明があった1項の2週間。報酬の定め方は関係しない
年俸制で辞めるとき3項を根拠に「3か月前」とする説明があった3項も「前項の解約の申入れ」=使用者側の規定

3項は「六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない」と書かれています。「前項の」がかかっているのは、使用者からの解約申し入れを定めた2項です。年俸制の人が3か月前に言わなければならない、という条文にはなっていません。

改正の内容そのものは法務省のページにまとまっています。古い解説が悪意で残っているわけではなく、2020年より前に書かれた記事が検索結果に残り続けているだけです。

ただ、それを読んだ側には「あと2か月、我慢しないといけないのか」という差になって届きます。あなたの給与が月給でも年俸でも、法律上の線は2週間です。

「2週間」の数え方 — 言った日は、数に入りません

答えは1行で済みます。言った日と同じ曜日の、2週間後。金曜に言えば、2週間後の金曜が最後の日です。

そうなる理由は、民法の総則にある別の2つの条文が決めています。

  • 民法140条(初日不算入)「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」
  • 民法143条2項 「週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」

言い換えると、申し入れた日の翌日から数えて14日目の終わりに満了します。ふつうの感覚で言えば「言った日と同じ曜日の、2週間後」です。

申し入れた日から、契約が終わる日まで(民法140条・143条2項・627条1項)
申し入れた日起算日(翌日)14日目=満了日雇用が終わる日
8月22日(土)8月23日(日)9月5日(土)の終了時9月5日(土)
9月1日(火)9月2日(水)9月15日(火)の終了時9月15日(火)
12月24日(木)12月25日(金)1月7日(木)の終了時1月7日(木)

数えるときに引っかかるのは、ここだけです。土日も祝日も年末年始も、そのまま1日として数えます。営業日で数え直す必要はありません。年末に申し入れたから休みの分だけ後ろにずれる、ということも起きません。

カレンダーを開いて、言うつもりの日に印をつけて、その2週間後に丸をつける。それであなたの日付はできあがりです。

そしてこの2週間は、「出社しなければいけない2週間」とは違います。残っている年次有給休暇を充てれば、籍が残ったまま出社しない期間にできます。最終出社日は、たいていここで手前にずれます。日付を決める前に、有給は使い切って辞められる(労基法39条の数え方と、会社が渋ってきたときの分岐)を先に見ておいてください。

就業規則に「退職は1か月前までに」と書いてあるとき

ここは、正直に言います。法律と就業規則のどちらが勝つかは、公的な説明の中でも幅があります。

民法が優先だとした裁判例がある

高野メリヤス事件(東京地判昭和51年10月29日)で問題になったのは、退職の予告期間を1か月前(役付者は6か月前)とし、さらに会社の許可を条件としていた就業規則の定めです。

判決は、民法627条の予告期間は使用者のために延長できないとして、この定めを無効と判断しました。労働法の解説で、いまもくり返し引用されている判断です。

就業規則を原則とする官公庁の案内もある

一方で大阪労働局のQ&Aは、会社の就業規則に退職の規定がある場合は原則として就業規則の規定が適用される、としています。そのうえで、極端に長い予告期間は公序良俗の見地から無効とされる場合もある、と付け加えています。

厚生労働省として民法と就業規則の優劣を言い切った公式説明は、今回の調査では見つかりませんでした。だから、ここは割れたまま置きます。

では、あなたはどうするか

決め手は「どちらが法的に強いか」ではなく、あなたが何を優先したいかのほうです。3つに分けました。

  • 円満に終わらせたい/同じ業界に残る/推薦や紹介が必要になるかもしれない → 就業規則の予告期間に合わせるのが、いちばん摩擦が少ない選択です。1か月前に出しておけば、この論点そのものが発生しません。
  • 体調が持たない/すでに関係が壊れている/次の入社日が動かせない → 法律上の線は2週間です。就業規則より短い日付で申し入れること自体は、627条1項が認めている行為です。会社と見解が割れたときに備えて、申し入れた日付が残る形にしておいてください。
  • 就業規則に「会社の許可を得ること」と書いてある → 許可を条件にする定めは、高野メリヤス事件で問題になった形と同じ構造です。ここまで来ると個別の判断になるので、労働局の総合労働相談コーナーか弁護士に持っていくほうが早いです。

どれを選んでも、逃げたことにはなりません。就業規則に合わせるのは「会社に屈した」ではなく、摩擦を減らすためにあなたが選んだ手順です。

この2週間が当てはまらない人

契約書に「◯年◯月◯日まで」と期間が書かれていないなら、この節は飛ばして大丈夫です。627条1項は「期間を定めなかったとき」の規定なので、契約の形が違うと線も変わります。

契約社員・パートで、契約期間が決まっている場合

期間の定めのある契約は、途中でやめることが原則としてできません。ただし、出口が3つあります。

  1. 期間が満了する — 更新しなければ、そこで当然に終わります。いちばん摩擦のない終わり方です。
  2. 民法628条のやむを得ない事由 — 「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」。ただし同じ条文の後半は、その事由が一方の過失で生じたときの損害賠償にも触れています。何が「やむを得ない事由」に当たるかは事情によるので、ここは個別に相談する領域です。
  3. 労働基準法附則137条 — 期間が1年を超える有期契約を結んだ人は、契約の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることによっていつでも退職できます。予告期間の定めはありません。ただし労基法14条1項各号の労働者(高度の専門的知識等を有する者、満60歳以上の者)は対象から外れます。厚生労働省の事業である愛知県雇用労働相談センターも同じ説明をしています。

試用期間中の場合

試用期間が付いていても、契約自体に期間の定めがなければ、労働者からの退職は627条1項がそのまま働く形になります。条文が区別しているのは「期間を定めたかどうか」であって、試用中かどうかではないからです。ただし、これを名指しで書いた官公庁のページは今回の調査では確認できませんでした。ここは条文の構造からの説明にとどめます。

混同しやすい話をひとつ。 労働基準法21条には「試の使用期間中(14日以内)は解雇予告が要らない」という規定があります。これは会社があなたを解雇するときの話で、あなたが辞めるときの話ではありません。数字が14で似ているので混ざりやすいのですが、別の条文です。

眠れない、朝起きられない — そこまで来ているなら、順番を変えていい

ここまで日付の話をしてきましたが、日付を決めるのは体力の要る作業です。

眠れない。食べられない。日曜の夜になると動悸がする。朝、ベッドから出られない日がある。そこまで来ているなら、退職の手続きより先に見てほしい場所があります。

厚生労働省のこころの耳に、働く人向けの相談窓口がまとまっています。費用はかかりません。

辞めるか辞めないかを決めてから相談する必要もありません。むしろ、決める前のほうがいい。判断は、消耗している状態でするほど雑になります。

辛いのは、耐えなくていいものです。2週間の数え方は、逃げませんから、あとから戻ってきてください。

日にちは、あなたが決めていい。

2週間は、我慢の長さではなく、あなたの手元にある目盛りです。

次にすることは、たぶんこの順番です。

  1. カレンダーで自分の日付を作る — 申し入れたい日の翌日から14日目。土日祝も1日として数えます。
  2. 有給の残日数を数える — 退職日から逆に充てていくと、最終出社日が出ます。数え方は有給は使い切って辞められるにまとめました。
  3. 就業規則の予告期間を確認する — 合わせるか、法律の線でいくか。ここは摩擦の量で選べば大丈夫です。
  4. もめる要素があるなら、先に相談先を決める — 未払いの残業代、ハラスメント、金銭の請求。この3つが混ざっているときは、日付より先に相談です。

自分で言うのがどうしても難しいときに、誰にどこまで頼めるのかは退職のものさしのトップで整理しています。頼める範囲は、法律で決まっています。

よくある質問

退職届を受け取ってもらえません。それでも2週間で辞められますか。
民法627条1項は「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めていて、会社が受け取るかどうかを条件にしていません。大阪労働局も、期間の定めのない雇用契約について会社の同意は必要ないと案内しています。ただし「言った・言わない」で争いになると立証の問題が残るので、申し入れた日付が残る形にしておくと後が楽になります。
怖くて直接言えません。書面でなくてもいいですか。
民法627条1項は、申し入れの方法を定めていません。条文が求めているのは「解約の申入れ」があったことだけです。一方で、会社の就業規則に届出の様式や提出先が書かれていることがあるので、そこは先に確認しておくと余計なやり取りが減ります。伝え方そのものに強い不安があるなら、労働局の総合労働相談コーナーに先に相談する手もあります。
上司に引き止められて、話が毎回終わりません。
民法627条1項の期間は、会社が話を続けているかどうかで止まりません。申し入れの日から2週間の経過で雇用は終了する、という条文の書き方だからです。厚生労働省「確かめよう労働条件」も、退職の申し入れをすれば2週間の経過で辞められると案内しています。話し合いが平行線でも、日にちのほうは進んでいると考えて大丈夫です。
残った2週間を有給で埋めて、そのまま行かないのはありですか。
年次有給休暇は労働基準法39条の権利で、取得に会社の承認は要りません。残日数を退職日までに充てる形は実務でも広く行われています。ただし残日数の数え方や、会社が「他の時季に」と言ってきたときの扱いには前提があるので、有給の面(有給は使い切って辞められる)を先に読んでから日付を決めるほうが安全です。
「損害賠償を請求する」と言われました。
民法628条は、期間の定めのある契約を途中でやめる場面について、やむを得ない事由が当事者の一方の過失で生じたときの損害賠償を定めています。期間の定めのない契約でどうなるかは、事情によって判断が分かれる領域で、このサイトでは断定しません。金銭の請求を持ち出されているなら、弁護士か、お住まいの労働局の総合労働相談コーナーへ持っていってください。

出典

  1. e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)第627条・第628条・第140条・第143条(確認日
  2. 法務省 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(確認日
  3. 厚生労働省 確かめよう労働条件「しっかり学ぼう!働くときの基礎知識」(確認日
  4. 大阪労働局 よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)(確認日
  5. 長崎労働局 労働法の基礎講座 第45回【退職】(確認日
  6. e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)附則第137条(確認日
  7. 愛知県雇用労働相談センター(厚生労働省事業) 有期労働契約の中途退職(確認日
  8. 高野メリヤス事件(東京地判昭和51年10月29日)の解説(確認日
  9. 厚生労働省 こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)(確認日