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退職のものさし 辞め方の、ものさし。

退職時の有給消化 — 残り全部を使って辞められる。労基法39条の数え方と、手元にある最大40日

有給は、残り全部を使って辞められます。労働基準法39条の権利です。

会社の承認は要りません。「忙しいから」も、断る理由にはなりません。使う理由を説明する義務もありません。

何日残っているか分からないなら、勤続年数から逆に数えられます。表を下に置きました。

言い出す前に知っておきたいことを、先に4つ並べます。

  • 会社の承認 — 要りません。39条は「使用者は……与えなければならない」と、会社の側に義務を置いた形で書かれています
  • 「引き継ぎが終わらない」と言われたら — 会社が持っているのは「他の時季に与える」権利です。退職日の後ろに、その「他の時季」がありません
  • 何日残っているか — 勤続年数の表で見当がつきます。手元の上限は「前年の繰越分+今年の付与分」まで。法定分だけなら最大40日
  • 買い取り — 会社に義務はありません。先に使い切る形を作って、どうしても残る分だけを相談に持っていきます

自分に関係するところだけ、拾い読みで大丈夫です。

このページが答えるのは「何日あるか」と「使えるか」です。その日数がいつからいつに収まるか——伝える日・最終出社日・退職日の3つの日付は、退職日の逆算計算機のほうが出します。

有給は「もらう」ものではなく、すでにある権利

労働基準法39条1項は、こう書かれています。

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

主語は「使用者は」、述語は「与えなければならない」。会社の側に義務がある形で書かれています。労働者が申請して、会社が審査して、認められたら発生する、という構造ではありません。

東京労働局の解説も、有給休暇は会社の承認によって与えられる性格のものではなく、要件を満たせば無条件に与えられるものだと説明しています。

つまり、上司に「今回は認められない」と言われても、日数そのものが消えるわけではありません。日程の話と、日数の話は別です。

条件は2つだけです。

  • 6か月以上、続けて勤務していること
  • 全労働日の8割以上、出勤していること

正社員かどうか、フルタイムかどうかは条件に入っていません。パートでもアルバイトでも契約社員でも、この2つを満たせば発生します。厚生労働省「確かめよう労働条件」も、パート・アルバイトを含めた基礎知識としてこの説明を置いています。

何日あるかは、勤続年数で決まっています

日数は会社が決めるものではなく、条文と施行規則で決まっています。自分の勤続年数の列を1つ見つければ、それで終わりです。まずは週5日勤務など、通常の労働者の場合から。

通常の労働者の付与日数(労働基準法39条1項・2項/東京労働局「しっかりマスター労働基準法 有給休暇編」で確認)
勤続年数6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以降
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下の人(週以外の期間で決めている場合は年間216日以下)は、比例付与になります。根拠は39条3項と労働基準法施行規則24条の3です。

比例付与の日数(労働基準法39条3項・労働基準法施行規則24条の3/東京労働局PDFの「短時間従業員の有給休暇の付与日数」と同値)
週の所定労働日数年間の所定労働日数6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以降
4日169〜216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121〜168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73〜120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48〜72日1日2日2日2日3日3日3日

なお、通常の労働者の週所定労働日数は5.2日として計算する決まりになっています(施行規則24条の3)。「週4日勤務だから正社員の5分の4」という単純な比ではないのは、この基準があるためです。

繰り越せるのは、前の年の分まで

有給の請求権の時効は2年です。労働基準法115条が、賃金以外の請求権について2年と定めていて、和歌山労働局の解説も年次有給休暇は2年で時効消滅すると書いています。

繰り越せるのは前年度に付与された分だけなので、手元にある最大値は「前年の繰越分+今年の付与分」になります。勤続2年6か月の人なら、前年の11日+当年の12日で23日が上限、という数え方です。3年前の未消化分がまだ残っている、ということは起こりません。

ここから、法定分で持てるいちばん大きい数も決まります。付与日数の上限は勤続6年6か月以降の年20日(39条2項)で、繰り越せるのは前年の1年分だけ。20日と20日で、40日が上限です。「退職時に40日消化できますか」という問いの答えは、40日が例外的に多い日数ではなく、制度が用意した最大値そのものだ、ということになります。会社が法定を上回る日数を独自に付けている場合だけ、これを超えます。

そして40日を全部使うには、退職日までに40日ぶんの所定労働日が必要です。週5日勤務なら、暦でおよそ2か月。1か月前に伝えて全部使い切る形は、日数のほうが入りません。何日ぶん入るかは退職日の逆算計算機が日付で出します。

退職日までに全部使う請求を、会社は動かせるのか

会社が持っているのは「休ませない権利」ではなく「他の時季に与える権利」です。そして退職日の後ろに、その「他の時季」がありません。

条文で確かめます。時季変更権は39条5項です。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

読むべきは最後の一文です。時季変更権は「休ませない権利」ではなく「他の時季に与える権利」として書かれています。

退職日までに残日数を全部充てる請求では、退職日の後ろに「他の時季」が存在しません。渡す先がないので、変更のしようがない、という構造になります。

条文の構造と、行政解釈の向きは一致しています。

そのうえで、実務にはもうひとつの道もあります。退職日を後ろにずらす合意です。有給の日数が残っていて、会社が引き継ぎの時間を欲しがっているなら、退職日を数日ずらして両方を成立させられます。

ただしこれは法律上の義務ではなく、話し合いの結果です。応じるかどうかは、あなたが決めて構いません。

なお東京労働局の解説は、時季変更権の行使条件は極めて限定されていて、「多忙だから」「代わりの従業員がいないから」という理由だけでは認められない、と書いています。退職の場面に限らず、そもそも簡単には使えない権利です。

会社が「忙しいから」と言ってきたら

忙しさや人手不足を理由にした拒み方は、東京労働局の解説が認められない例として挙げているものです。返ってくる言葉は、だいたい型が決まっています。よく出てくるものから並べるので、言われたところだけ読んでください。

「その時期は困る」と言われた

39条5項の時季変更権が使えるのは、事業の正常な運営を妨げる場合です。忙しさの主張だけでは足りない、というのが東京労働局の説明です。そして退職日までの請求では、渡す先の「他の時季」がありません。日程の相談として受け止めるのは自由ですが、日数が減る話ではありません。

「代わりがいない」と言われた

人員配置は会社が用意するものです。同じく、東京労働局の解説が「代わりの従業員がいないから」を認められない理由の例として挙げています。あなたの罪悪感が正しいという証拠にはなりません。

「査定に響くよ」と言われた

労働基準法附則136条は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない、と定めています。東京労働局の解説では、精皆勤手当を減らす、賞与の査定で欠勤扱いにする、といった例が挙げられています。

条文の言い回しは「しないようにしなければならない」で、法的な性質については議論のある条文です。ただ、方向としては明確に禁じる側に振れています。実際に減額されたら、給与明細という証拠が手元に残るので、労働局の総合労働相談コーナーに持ち込めます。

「就業規則で決まっている」と言われた

就業規則に有給の申請期限(何日前まで)が書かれていること自体はあります。ただし就業規則で日数を減らすことはできません。労働基準法は最低基準を定めた法律だからです。退職日そのものの予告期間については、退職は法律上2週間でできるのほうで、法律と就業規則の関係を両論で整理しています。

話し合いにならないとき

上のどれでもなく、話すこと自体が成立しないことがあります。電話に出てもらえない、面談が毎回流れる、話すたびに人格の話にすり替わる。

そういうときの答えは、あなたが交渉役を続けなくていい、です。粘り強さが足りないから話が進まないわけではありません。

労働局の総合労働相談コーナーは無料で使えます。未払いの賃金やハラスメントが絡んでいるなら、弁護士の領域になります。退職代行に頼む場合も、有給や退職日の「交渉」まで頼めるかどうかは運営主体で変わります。頼める範囲の整理は退職のものさしのトップに置いてあります。

眠れなくなっているなら、順番を変えていい

有給の日数を数えるのも、上司に言い出す文面を考えるのも、体力を使う作業です。眠れない、食べられない、朝ベッドから出られない日がある。そこまで来ているなら、先に厚生労働省のこころの耳を見てください。働く人向けの相談窓口がまとまっていて、費用はかかりません。

辞めるか決まっていなくても使えます。むしろ、決める前のほうがいい。日数は逃げませんから、あとから戻ってきてください。

買い取ってもらえますか

会社に買い取る義務はありません。そして禁止されているのは、在職中に「買い上げるから休むな」とする形のほうです。3つに分けると、はっきりします。

  1. 会社に買い取る義務はありません。 買取を定めた法律はありません。
  2. 在職中に「買い上げるから休むな」とする予約は、労働基準法39条違反とされています。 昭和30年11月30日基収4718号として引用される行政解釈です。休む権利を金に置き換えて日数を減らす形は、39条が想定していません。
  3. 退職時に、未消化のまま消えてしまう日数を事後的に買い取ることは、禁止されていないと解されています。 同じ行政解釈の整理として、時効で消滅した分の買取や、法定日数を超えて会社が上乗せしている分の買取も、違法とはならないと説明されています。

つまり買取は、「頼めるかもしれない相談事」であって、請求できる権利ではありません。だから順番はこうなります。先に使い切る形を作って、どうしても残る分だけを相談材料にする。断られても、計画のほうは崩れません。

金額の相場を書いているサイトもありますが、公的な出典が見つからないため、このサイトでは金額を書きません。

「年5日」は会社の義務であって、あなたの上限ではありません

2019年4月から、年10日以上の有給が付与される労働者について、会社が年5日を取得させる義務を負っています。労働基準法39条7項です。労働者が自分で取った分や計画的付与の分は、5日から差し引かれます(同8項)。

年5日の取得義務と罰則(労働基準法39条7項・119条・120条/厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」で確認)
項目内容
対象年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者・有期契約も含む)
義務の中身基準日から1年以内に5日、使用者が時季を指定して取得させる
義務を負う人使用者(会社)。労働者側の義務ではない
39条7項違反の罰則労働基準法120条 — 30万円以下の罰金
請求した時季に与えない場合労働基準法119条 — 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
管理簿年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務がある

ここを読み違えて「有給は年5日までしか取れない」と思っている人がいます。逆です。5日は、会社が取らせなければ罰則が付く下限であって、あなたが使える上限ではありません。残日数がある限り、上限は残日数のほうです。

そして管理簿の作成義務があるということは、あなたの残日数はどこかに記録されているということでもあります。分からないまま辞めないでください。給与明細、勤怠システム、人事。どこかに数字があります。

残っている日数は、あんたの働いた分。

使い切って辞めるのは、わがままではなく設計です。

順番はこれで足ります。

  1. 残日数を確定させる — 勤続年数から上の表で見当をつけて、給与明細か勤怠システムか人事で実数を確認します。この面が持っているのは、ここまでです。
  2. その日数が収まる日付を出す — 退職日の逆算計算機に残日数を入れると、伝える日・最終出社日・退職日が3つとも日付で出ます。年休は所定労働日に取るものなので、土日祝は数に入りません。
  3. 就業規則の「1か月前」とどう付き合うか決める — 法律の線は申し入れから2週間です。条文と就業規則の関係は退職は法律上2週間でできるで両論のまま整理しています。
  4. 残る分だけを、買取の相談材料にする — 義務ではないので、断られても計画は崩れません。

自分で言い出すところがどうしても越えられないなら、誰にどこまで頼めるのかを退職のものさしのトップで確認してください。頼める範囲は、運営しているのが弁護士か労働組合か民間企業かで変わります。

よくある質問

有給を全部使うと言い出すのが、図々しい気がして言えません。
年次有給休暇は労働基準法39条が定めた権利で、会社が好意で与えるものではありません。東京労働局の解説も、有給休暇は会社の承認によって与えられる性格のものではないと説明しています。使う理由を説明する義務もありません。言い出しにくさは気持ちの問題として実在しますが、権利の側には図々しさの余地がそもそも用意されていません。
「引き継ぎが終わらないから無理」と言われました。
労働基準法39条5項の時季変更権は「他の時季に与える」権利です。退職日までに残日数を充てる請求では、退職日を超えた他の時季が存在しません。行政解釈(昭和49年1月11日基収5554号)では、退職予定日を超えての時季変更はできないとされています。実務では、退職日を後ろにずらす合意や引き継ぎ日程の調整で折り合うこともあります。応じるかどうかはあなたが決めて構いません。
有給を使ったら、賞与や査定で不利になりませんか。
労働基準法附則136条は、39条1項から4項までの有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない、と定めています。東京労働局の解説でも、精皆勤手当や賞与査定で欠勤扱いにする例が不利益取扱いとして挙げられています。実際に減額された場合は、労働局の総合労働相談コーナーに事実を持ち込むのが早い道です。
残った有給は、お金で買い取ってもらえますか。
会社に買い取る義務はありません。在職中に買上げを予約して日数を減らすことは労働基準法39条違反とされていますが、退職時に未消化のまま消えてしまう日数を事後的に買い取ることは、禁止されていないと解されています(昭和30年11月30日基収4718号として引用される行政解釈)。ただし実施するかどうかも金額も会社次第です。相場を示すデータは公的な出典が見つからないため、このサイトでは金額を書きません。
退職時に40日の有給を消化することはできますか。
できます。40日は、法定分だけを持っている人の上限そのものです。年次有給休暇の付与日数は勤続6年6か月以降で年20日が上限(労働基準法39条2項)、請求権の時効は2年(同115条)なので、繰り越せるのは前年度の付与分だけ。20日と20日で40日が、法定分として手元に置ける最大値になります。会社が法定を上回る日数を独自に付与している場合だけ、40日を超えることがあります。日数の上限を決めているのは条文であって、会社の裁量ではありません。
有給が残ったまま退職日を迎えると、どうなりますか。
消えます。年次有給休暇は在籍している労働者の権利なので、退職して労働契約が終われば、未消化の日数はそこで無くなります。時効の2年(労働基準法115条)を待たずに終わる形です。買い取ってもらえるかどうかは会社次第で、買取の義務を定めた法律はありません。だから順番としては、先に使い切る形で退職日を決めて、それでも残る分だけを相談材料にするのが確実です。退職日から逆算していつまで有給が入るかは、退職日の逆算計算機で日付が出ます。
自分に何日残っているのか、そもそも分かりません。
勤続年数から逆算できます。週5日勤務なら入社6か月で10日、以後1年ごとに増えて6年6か月以降は年20日です。時効は2年なので、前年度の繰越分と当年度の付与分の合計が上限になります。年5日以上取得する人には年次有給休暇管理簿があるはずなので、給与明細や勤怠システム、人事に確認するのがいちばん速い方法です。

出典

  1. e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第39条・第115条・第119条・第120条・附則第136条(確認日 )
  2. e-Gov法令検索 労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)第24条の3(比例付与)(確認日 )
  3. 東京労働局 しっかりマスター労働基準法 有給休暇編(確認日 )
  4. 厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(確認日 )
  5. 厚生労働省 リーフレット「年次有給休暇の時季指定義務」(確認日 )
  6. 和歌山労働局 年次有給休暇(労働基準法第39条)(確認日 )
  7. 厚生労働省 確かめよう労働条件「しっかり学ぼう!働くときの基礎知識」(確認日 )
  8. 厚生労働省 こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)(確認日 )