退職代行の3類型比較 — 安いほうを選ぶと、届かなくなる5項目
退職代行を比べるとき、最初に見るものは料金ではありません。 同じ名前で売っていても、法律上頼めることが運営形態で違うからです。
退職のときに起きることを10項目に割って測ると、民間企業が運営する代行で「頼める」と言い切れたのは2項目、労働組合は5項目、弁護士は10項目でした。残りは「条件つき」か「頼めない」です。
この面には、金額が1つも出てきません。載せないほうが、比べるものがはっきりするからです。会社名も並べていません。理由は会社名を、この面に並べていない理由に書きました。
「安いほうが得とは限らない」を、金額なしで説明します
料金から見はじめると、比べる軸が「いくらか」に固定されて、「それで足りるのか」が最後まで出てきません。
退職代行の比較記事は、たいてい料金・スピード・実績の3つを横に並べています。この3つは、頼める範囲の話を1つも含みません。
スピードを軸に置かないのは、即日の対応を3類型のどれもが掲げていて、選ぶ材料にならないからです。実績を軸に置かないのは、累計件数が各社の自己申告で、外から数え直せないからです。読者が同じ材料で数え直せない数字は、順位の根拠になりません。比べる項目の決め方は作り方と決めごとにまとめてあります。
残るのが到達範囲です。ここだけは、会社の広告の巧さではなく、運営しているのが弁護士か、労働組合か、民間企業かでほぼ決まります。法律で頼める範囲がそこで分かれるためです。
料金を出していないのには、もうひとつ理由があります。各社の金額を公式サイトで取り直せていないためです。他サイト経由の金額は、古くなっていても読む側から見分けが付きません。取り直したあとも、金額はサービス別の面に確認日つきで置き、この面には持ち込まない予定です。順序が逆になるからです。
比較表 — 3類型が、10項目のどこで止まるか
民間企業は④で、労働組合は⑦で、最初の「頼めない」に当たります。弁護士の列には「頼めない」がありません。
| 運営しているのは | 頼める | 条件つき | 頼めない |
|---|---|---|---|
| 民間企業 最初に届かなくなるのは ④有給の日数・退職日の条件を交渉する | 2 項目 | 3 項目 | 5 項目 |
| 労働組合 最初に届かなくなるのは ⑦会社からの損害賠償請求に対応する | 5 項目 | 3 項目 | 2 項目 |
| 弁護士 10項目とも届く | 10 項目 | 0 項目 | 0 項目 |
- 頼める
- その運営形態の権限の中に、この行為が収まると解説されています
- 条件つき
- 形を守れば頼めるとされる行為です。線を越えた瞬間に別の話になります
- 頼めない
- その運営形態では扱えないとされる行為です。頼むなら上の段の類型になります
数だけを見ると、弁護士の列が長く、民間の列が短く見えます。ただし数が多いほうを選べばいい、という表ではありません。あなたの用件が①と⑨に収まっているなら、どの列でも同じ答えが返ってきます。逆に⑦が要るなら、列は1本しか残りません。
| 運営形態 | ① 退職の意思を会社に伝える | ② 有給の消化と退職日を交渉する | ③ 未払い賃金の支払いを求める | ④ 損害賠償の請求や訴訟に対応する | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 民間企業 | 依頼できる | 依頼できない | 依頼できない | 依頼できない | 退職の意思を本人の使者として伝えるところまで。報酬を得る目的で交渉まで踏み込むと弁護士法72条の問題が生じる、と専門家は解説している |
| 労働組合 | 依頼できる | 依頼できる | 依頼できる | 依頼できない | 労働組合の団体交渉として、有給消化・退職日・未払い賃金の交渉まで。団体交渉は弁護士法72条に当たらないと判示した裁判例がある、と解説されている |
| 弁護士 | 依頼できる | 依頼できる | 依頼できる | 依頼できる | 交渉に加えて、訴訟・損害賠償の請求など法律事務全般を扱える |
図の4目盛りは、この10項目を4つに畳んだものです。畳むときのきまりと、30マスぶんの根拠・確度・確認日は退職代行に「頼める範囲」判定表(行為10項目×運営3類型)にあります。この面の判定は、そのデータをそのまま読み替えたものです。
安いほうを選ぶと、手に入らないのはこの5項目
民間企業が運営する退職代行について「頼めない」と整理されているのは、次の5項目です。金額の差を見るより、この5行に自分の用件があるかどうかを先に見てください。
- ④有給の日数・退職日の条件を交渉する(根拠と確度を見る) あなたの言葉なら — 会社が「その日は無理」と言ってきたら、話をつけてほしい
- ⑤未払いの賃金・残業代の支払いを求める(根拠と確度を見る) あなたの言葉なら — サービス残業のぶん、払ってもらいたい
- ⑥金額と支払期日を詰めて合意する(根拠と確度を見る) あなたの言葉なら — いくらを、いつまでに。そこまで決めてきてほしい
- ⑦会社からの損害賠償請求に対応する(根拠と確度を見る) あなたの言葉なら — 「損害賠償を請求する」と言われてしまった
- ⑧労働審判・訴訟の代理人になる(根拠と確度を見る) あなたの言葉なら — 話し合いで終わらないなら、裁判までやりたい
ここに1行も当たらないなら、料金で選んで問題が起きにくい側にいます。1行でも当たるなら、その行が届く類型は比較表で1つに絞られます。
「条件つき」の3項目は、届いているようで途中で切れます
民間の列には、「頼めない」のほかに「条件つき」が3項目あります。形を守れば頼めるとされる行為です。線を越えた瞬間に別の話になります
- ②会社からの連絡を本人へ取り次ぐ(どこまでが条件かを見る) あなたの言葉なら — 会社から電話が来ても、直接は出たくない
- ③有給を使いたいという希望を伝える(どこまでが条件かを見る) あなたの言葉なら — 残っている有給は、使ってから辞めたい
- ⑩離職票・退職証明書などの交付を求める(どこまでが条件かを見る) あなたの言葉なら — 失業給付の手続きに要る紙が、まだ届かない
たとえば③は、「この日から有給にします」と伝えるところまでが伝達で、会社が渋ったあとに条件を詰めはじめると④に移ります。行の名前は同じでも、どこまでやるかで扱いが変わるのがこの3項目です。何が条件なのかは、判定表の各欄に1行ずつ書いてあります。
一段上げると、増えるのはこれだけです
民間企業から労働組合へ替えると6項目、労働組合から弁護士へ替えると5項目が、届く側へ動きます。動くのはここだけです。
民間企業 → 労働組合で動く6項目
- ②会社からの連絡を本人へ取り次ぐ 条件つき → 頼める
- ③有給を使いたいという希望を伝える 条件つき → 頼める
- ④有給の日数・退職日の条件を交渉する 頼めない → 条件つき
- ⑤未払いの賃金・残業代の支払いを求める 頼めない → 条件つき
- ⑥金額と支払期日を詰めて合意する 頼めない → 条件つき
- ⑩離職票・退職証明書などの交付を求める 条件つき → 頼める
労働組合 → 弁護士で動く5項目
- ④有給の日数・退職日の条件を交渉する 条件つき → 頼める
- ⑤未払いの賃金・残業代の支払いを求める 条件つき → 頼める
- ⑥金額と支払期日を詰めて合意する 条件つき → 頼める
- ⑦会社からの損害賠償請求に対応する 頼めない → 頼める
- ⑧労働審判・訴訟の代理人になる 頼めない → 頼める
2つの差分に、あなたの用件が入っていなければ、上げる理由はありません。入っているなら、料金の差はその行を手に入れるための差になります。どちらなのかは、あなたのほうが自分の会社をよく知っています。
3類型とも同じ答えになるのは、2項目だけです
判定語まで3列そろうのは①退職の意思を会社に伝える/⑨貸与品の返却・私物受け取りの連絡の2項目です。用件がここに収まっているなら、あとは料金で選べます。
「頼める/頼めない」の2つに畳むと、3類型とも届く行は5項目まで広がります(①退職の意思を会社に伝える/②会社からの連絡を本人へ取り次ぐ/③有給を使いたいという希望を伝える/⑨貸与品の返却・私物受け取りの連絡/⑩離職票・退職証明書などの交付を求める)。ただし増えた3項目は、民間の列でだけ「条件つき」が付きます。
ネットの要約と、いちばん食い違うところ
3類型を1行で説明した表は、どこにでもあります。だいたい「民間は伝えるだけ」と書いてあります。10項目に割って測ると、この要約は半分しか合っていません。
合っているのは、民間の列にも届く行がある点です。①退職の意思を会社に伝える/⑨貸与品の返却・私物受け取りの連絡は「頼める」で、手続きが止まっている理由が「言い出せないこと」だけなら、それで用は足ります。
食い違うのは、「伝えるだけ」に見える行のいくつかが、民間の列では条件つきになる点です。②会社からの連絡を本人へ取り次ぐ/③有給を使いたいという希望を伝える/⑩離職票・退職証明書などの交付を求めるの3項目がそれに当たります。有給を使いたいと言うことも、離職票を出してほしいと言うことも、言葉の上では伝達です。ただし会社が応じなかったあとに履行を迫る段へ進むと、交渉の側に入ると解説されています。伝達と請求は、日本語では地続きに見えて、法律の側では別の行為として扱われています。
だから「伝えるだけなら安いところで足りる」は、会社がすんなり応じる場合に限って正しいという言い方になります。応じなかったときに次の手があるかどうかが、この3項目の差です。
「民間では頼めない」の根拠は、どのくらい強いか
弁護士の列は10マスすべてが条文由来(確度A)ですが、民間の列は8マスが専門家解説どまり(確度C)です。
| 運営しているのは | 確度A | 確度C | 確度D |
|---|---|---|---|
| 民間企業 | 2 マス | 8 マス | 0 マス |
| 労働組合 | 1 マス | 8 マス | 1 マス |
| 弁護士 | 10 マス | 0 マス | 0 マス |
- 確度A
- 条文が可否を直接書いている(原文を確認済み)
- 確度C
- 条文はあるが、この行為への当てはめは行政解釈・専門家解説の紹介にとどまる
- 確度D
- 解釈が分かれている。両論を併記する
確度B(官公庁の公式解説で確認できる) は3類型とも0マスなので、表から列ごと外しています。退職代行そのものの可否を整理した官公庁のページが見つかっていないためで、この事情は 判定表の「この判定はどう作ったか」に書いてあります。
民間の列で確度Aなのは⑥金額と支払期日を詰めて合意する/⑧労働審判・訴訟の代理人になるの2マスだけです。弁護士法72条が「代理」と「和解」という語を条文に直接持っているためで、ここは条文の側で線が引かれています。
残りの8マスは、条文はあっても、その行為に当てはまるかどうかが専門家の解説にとどまります。だから当サイトは、実在する事業者の行為が法に触れるかどうかを判定しません。書けるのは、条文に書いてあることと、解説がどう説明しているかまでです。
労働組合の列には、見方が分かれている1マス(⑥金額と支払期日を詰めて合意する)が残っています。読みやすくするなら、どちらかに寄せて書いたほうが早いのですが、寄せた時点でこの表の用途がなくなります。確度が低いことを隠さないほうが、確かめたい人の役に立ちます。
会社名を、この面に並べていない理由
このサイトは会社を選ぶ前に、まず種類を選ぶ作りにしているからです。種類が決まれば、候補は自然に絞れます。
比較面に会社名を並べると、読者は「どの会社が1位か」を先に読みます。ところが順位を分ける中身は、広告の巧さではなく運営形態です。順番を逆にすると、選ぶ理由が見えないまま並び順だけが残ります。だからこの面は種類までを扱い、会社名は置きません。
会社ごとの運営形態と料金は、各社の公式表示を確認日つきでサービス別の面に載せます。まだ1社も出していません。公式で取り直せた社から順に出します。掲載の母集団と外した社の理由は作り方と決めごとにあります。
順位を出すときも「総合1位」は作りません。付けるのは「誰にとって、どの条件で1位か」だけで、向いている人・その順位にした理由・確認した根拠・弱点・2位が向く人・確認日の6つを必ず添えます。この面には、報酬が発生するリンクを1本も置いていません。
比べる体力が、もう残っていないなら
ここまで、どこまで届くかの話をしてきました。表を読んで選ぶには、それなりに体力が要ります。
眠れない。食べられない。日曜の夜になると胸が苦しくなる。そこまで来ているなら、類型を選ぶより先に開いてほしい場所があります。厚生労働省のこころの耳に、働く人向けの相談窓口がまとまっています。費用はかかりません。辞めると決めてから相談する必要もありません。
辛いのは、耐えなくていいものです。この表は逃げませんから、あとから戻ってきてください。
安いか高いかより、届くか届かないか。
料金表は、行き先が決まってから見ると読みやすくなります。
次にすることは、たぶんこの順番です。
- 自分の用件を、行の番号にする — 困っていることから行を引く表が退職代行に「頼める範囲」判定表(行為10項目×運営3類型)にあります。
- 民間の列で届くかを見る — 民間企業では頼めない5項目に自分の用件が入っているかどうか。1行も入っていなければ、料金で選べます。
- 日付を作る — 申し入れから2週間で契約は終わります。数え方は退職は法律上2週間でできる(民法627条と就業規則の関係)へ。
- 有給の残りを数える — 退職日から逆に充てると最終出社日が出ます。有給は使い切って辞められる(労基法39条の数え方)へ。
よくある質問
- 退職代行は、弁護士・労働組合・民間企業のどれを選べばいいですか。
- どれが良いかではなく、あなたの用件がどこまで届く必要があるかで決まります。退職のときに起きることを10項目に割ると、民間企業が運営する代行は「頼める」が2項目・「条件つき」が3項目・「頼めない」が5項目、労働組合は5・3・2項目、弁護士は10項目すべてが「頼める」です。伝えることと事務連絡だけで足りるなら3類型のどれでも届きます。会社が条件を出してきたら④へ、金銭の話が出たら⑤以降へ用件が動き、届く類型が減ります。当サイトは「あなたの場合はこうする」という助言は行いません。
- 安い退職代行だと、何ができないんですか。
- 民間企業が運営する退職代行について「頼めない」と整理されているのは5項目です(④有給の日数・退職日の条件を交渉する/⑤未払いの賃金・残業代の支払いを求める/⑥金額と支払期日を詰めて合意する/⑦会社からの損害賠償請求に対応する/⑧労働審判・訴訟の代理人になる)。加えて3項目が「条件つき」で(②会社からの連絡を本人へ取り次ぐ/③有給を使いたいという希望を伝える/⑩離職票・退職証明書などの交付を求める)、これは伝達にとどまる限り扱えるという意味です。理由は弁護士法72条で、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことを業とできない、と定めています。ただし当サイトは、実在する事業者の行為がこの条文に触れるかどうかの判定は行いません。
- 労働組合の退職代行なら、全部やってもらえますか。
- いいえ。労働組合が運営する退職代行にも「頼めない」が2項目あります(⑦会社からの損害賠償請求に対応する/⑧労働審判・訴訟の代理人になる)。交渉の権限は労働組合法6条が定めていますが、会社からあなた個人に向いた金銭の請求や、労働審判・訴訟の代理は団体交渉の枠を超えると解説されています。また④有給の日数・退職日の条件を交渉する/⑤未払いの賃金・残業代の支払いを求める/⑥金額と支払期日を詰めて合意するは「条件つき」で、その組合に加入したうえで団体交渉として行う形が前提になります。
- この比較表に料金が載っていないのは、なぜですか。
- 2つ理由があります。1つは、各社の料金を公式サイトで取り直せていないためです。他サイト経由の二次情報の金額は、古くなっていても読む側から見分けが付かないので載せません。もう1つは、料金を先に置くと比べる軸が「いくらか」に固定され、「それで足りるのか」が最後まで出てこないためです。この面は到達範囲だけを扱い、金額は運営形態を選んだあとに見る数字として、サービス別の面に確認日つきで置きます。
- 3類型で頼める範囲が変わる根拠は、法律のどこに書いてありますか。
- 弁護士法3条1項が、弁護士は依頼によって訴訟事件その他一般の法律事務を行うことを職務とすると定め、同法72条が弁護士でない者にそれを禁じています(違反の罰則は同法77条3号で2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)。労働組合については労働組合法6条が、労働組合の代表者または委任を受けた者は組合または組合員のために使用者と交渉する権限を有すると定め、同法7条2号が団体交渉の正当な理由のない拒否を不当労働行為として禁じています。退職の申入れそのものは民法627条1項です。ただし、これらの条文を個々の退職代行の行為に当てはめる部分は、多くが専門家の解説にとどまります。
出典
- e-Gov法令検索 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第3条・第72条・第77条(確認日 )
- e-Gov法令検索 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)第6条・第7条(確認日 )
- e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)第627条(確認日 )
- e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第22条・第23条・第39条(確認日 )
- e-Gov法令検索 雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第76条(確認日 )
- ベンナビ労働問題「退職代行と弁護士法72条」(確認日 )
- 加藤ゼミナール「弁護士法72条の解説」(確認日 )
- 越水法律事務所「退職代行の法的な位置づけ」(確認日 )
- 厚生労働省 確かめよう労働条件「しっかり学ぼう!働くときの基礎知識」(確認日 )
- 大阪労働局 よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)(確認日 )
- 厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内(確認日 )
- 厚生労働省 こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)(確認日 )