傷病手当金は、辞めたあとも受け取れます — 退職後の継続給付3条件と、退職日の落とし穴
条件は3つ。被保険者期間が継続して1年以上あること。退職日に受けているか、受けられる状態であること。そして、退職日に出勤しないこと。
3つ目でつまずく人がいます。最後の日だから挨拶に、と考えるところです。順番だけ、先に確かめてください。
急いでいる人のために、この面の答えを4つ並べます。ここだけ読んで閉じても大丈夫です。
- 3つの条件 — 継続して1年以上の被保険者期間/退職日に受けているか受けられる状態/退職日に出勤しない
- 金額 — 1日あたり、標準報酬月額の平均額の30分の1の3分の2。退職しても日額は変わりません
- 期間 — 支給を始めた日から通算して1年6か月。退職日からではありません
- 失業保険 — 同じ日に両方は受けられません。かわりに受給期間を延長して、順番に受けられます
まず、条文をそのまま置きます
健康保険法104条は、こう書かれています。
被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
読むところは3つです。
- 「引き続き一年以上被保険者であった者」 — 通算ではなく、切れずに1年以上です。転職して間が空いていると、そこで切れます。
- 「その資格を喪失した際に……支給を受けているもの」 — 退職の時点で、すでに受けている(または受けられる状態にある)ことが入口の条件です。辞めてから体調を崩した場合は、この条文の対象になりません。
- 「受けることができるはずであった期間」 — 辞めたことで期間が短くなる書き方をしていません。在職していたら受けられたはずの期間が、そのまま残ります。
協会けんぽも同じ向きで、「被保険者期間が継続して1年以上あり、資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であれば」支給を受けられると案内しています。
引いている条文が、どの法律のどこにあるか
条文の番号が分かっていても、e-Gov法令検索を開いた先で目当ての条にたどり着けないことがあります。健康保険法は大正十一年の法律で章立てが深く、雇用保険法にいたっては「第二十条」が本則に1つ、附則に2つあります。
| 条文 | 条文に付いている見出し | 法律の中で置かれている場所 | 法令番号・公布日 | 表示されている版の施行日 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険法 99条 | (傷病手当金) | 第四章 保険給付/第三節 傷病手当金、埋葬料、出産育児一時金及び出産手当金の支給 | 大正十一年法律第七十号/1922年4月22日公布 | 2026年8月1日施行(令和八年法律第三十一号による改正) |
| 健康保険法 104条 | (傷病手当金又は出産手当金の継続給付) | 同上 | 同上 | 同上 |
| 健康保険法 108条 | (傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整) | 同上 | 同上 | 同上 |
| 雇用保険法 20条 | (支給の期間及び日数) | 第三章 失業等給付/第二節 一般被保険者の求職者給付/第一款 基本手当 | 昭和四十九年法律第百十六号/1974年12月28日公布 | 2026年5月13日施行(令和七年法律第三十二号による改正) |
| 雇用保険法 附則20条(2つ) | (高齢求職者給付金の額に関する経過措置)/(その他の経過措置の政令への委任) | 附則 | 同上 | 同上 |
受給期間の延長を調べていて「雇用保険法20条」にたどり着いたとき、読むのは本則の第三章にあるほうです。附則の20条は高齢求職者給付金の経過措置と政令委任で、延長の話は書かれていません。法令データベースの中で条の番号を検索すると、この3つが並んで出てきます。
健康保険法の3条は、いずれも同じ第四章第三節に固まっています。99条で傷病手当金そのものを定め、104条が退職後の継続給付、108条が報酬や年金と重なったときの調整です。辞めた後の話は104条にしか書かれていないので、在職中の説明を読んでいるうちは条件が出てきません。
退職日を軸に、時間を並べます
傷病手当金の説明は、たいてい「健康保険の給付」の側から書かれています。ここでは退職の日を真ん中に置いて並べ直しました。あなたが決めるのは日付なので、日付の側から見えたほうが早いはずです。
| いつ | 満たしておくこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 退職日までの1年間 | 健康保険の被保険者だった期間が、切れずに1年以上あること(任意継続の期間と、共済組合の組合員だった期間は数に入りません) | 健康保険法104条 |
| 休み始めた最初の3日 | 連続して3日間、仕事に就けなかったこと。この3日は待期で、支給の対象外です | 健康保険法99条1項 |
| 退職日の前日 | 傷病手当金を現に受けているか、受けられる状態であること | 協会けんぽ |
| 退職日(その日) | 出勤しないこと。協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付の条件を満たさないため、退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えないと書いています | 協会けんぽ |
| 退職日の翌日から | 同じ病気・けがで、働けない状態が続いていること。いったん働ける状態になると、その後また働けなくなっても支給されません | 協会けんぽ |
いくらもらえるか
計算式は健康保険法99条2項にあります。1日あたり、支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の、30分の1の3分の2です。
標準報酬月額は、給与明細や健康保険証の交付元で確認できます。手取りではなく、社会保険料を決めるときの金額です。
| あなたの状況 | 使う金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 標準報酬月額が定められている月が12か月以上ある | 直近の継続した12か月の標準報酬月額の平均額 | 平均額 ÷ 30 × 3分の2 |
| 標準報酬月額が定められている月が12か月に満たない | 次の2つのうち低いほう。①直近の継続した各月の標準報酬月額の平均 ②協会けんぽが示す標準報酬月額の平均額(支給開始日が令和7年4月1日以降の方は32万円、令和7年3月31日以前の方は30万円) | 低いほうの額 ÷ 30 × 3分の2 |
たとえば標準報酬月額の平均が30万円なら、30万円 ÷ 30 = 1万円、その3分の2で1日あたり約6,667円。30日分で約20万円という並びになります。実際の額には条文どおりの端数処理が入るので、正確な数字は保険者の計算が正になります。
退職しても、この日額は変わりません。 99条2項の計算が見ているのは「支給を始める日」より前の標準報酬月額で、そこは辞めても動かないからです。104条の側も「被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して」と書いていて、辞めたら減額される、という仕組みにはなっていません。
ネットの解説といちばん食い違うところ
1. 「1年6か月」は、退職日から数えるものではありません
健康保険法99条4項は「同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間」と書いています。起点は、支給が始まった日です。休職中に半年受け取ってから辞めたなら、退職後に残っているのは1年です。
2. 「通算」に変わったのは、令和4年1月1日からです
それ以前は、支給開始日から暦の上で1年6か月が経てば、途中に働いた期間があってもそこで終わりでした。厚生労働省は令和4年1月1日からの通算化を公表していて、途中で就労するなど支給されない期間がある場合には、支給開始日から1年6か月を超えても繰り越して支給できる、と説明しています。
古い解説がまだ検索結果に残っていて、「休職と復職をくり返すと損をする」という前提で書かれています。いまは、支給された日だけを足していく数え方です。
3. 「退職したら健康保険を抜けるからもらえない」も、違います
ここがいちばん誤解されているところです。退職すれば健康保険の被保険者ではなくなりますが、104条は資格を失った人についての条文です。被保険者でなくなることを前提に、それでも継続して受けられる、と書いてあります。
国民健康保険に切り替えたあとも、この継続給付は辞めた会社の健康保険(同一の保険者)から受け取ります。104条が「継続して同一の保険者から」と書いているためで、切り替え先が払うわけではありません。
ひとつだけ注意を置きます。家族の被扶養者になれるかどうかには収入の基準があり、傷病手当金も収入として見られます。基準の金額は保険者ごとに決まっているので、当サイトでは数字を書きません。扶養に入る予定があるなら、入れる側の健康保険に先に聞いてください。
4. 給与が出ている日は、そもそも支給されません
健康保険法108条1項は、報酬の全部または一部を受けることができる者に対しては、それを受けられる期間は傷病手当金を支給しないと定めています。ただし、受けられる報酬の額が99条2項で算定される額より少ないときは、その差額が支給されます。
協会けんぽが挙げる支給の条件にも「休業した期間について給与の支払いがないこと」が入っています。有給休暇を充てた日は、傷病手当金の側では給与が出ている日として扱われます。有給を先に使い切るか、傷病手当金を先に受けるかで、手元に入る額と期間の残り方が変わります。どちらが得かは金額と残日数によるので、有給の残りを数えてから決めてください。
待期の3日は、連続していないと始まりません
健康保険法99条1項は、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から支給する、と書いています。この最初の3日が待期です。
協会けんぽの説明では、待期3日間は会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。連続して2日休んだあと3日目に仕事をした場合、待期は成立しない、と明記されています。
| 1日目 | 2日目 | 3日目 | 待期 |
|---|---|---|---|
| 休み | 休み | 休み | 成立。4日目から支給の対象 |
| 休み | 休み | 出勤 | 成立しない。数え直し |
| 休み(土曜) | 休み(日曜) | 休み(月曜) | 成立。もともとの休日も日数に入ります |
もう出社できる状態ではない、というところまで来ている人にとっては、この3日は自然に埋まっているはずです。わざわざ作りに行く必要のある条件ではありません。
失業保険とは、順番に受けます
同じ日について、両方の条件を満たすことはできません。並べるとはっきりします。
| 給付 | 前提にしている状態 | 出どころ |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | 療養のため労務に服することができないこと | 健康保険法99条1項 |
| 雇用保険の基本手当 | 就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があること | ハローワークインターネットサービス |
働けないから傷病手当金を受けている人は、その同じ日について「いつでも就職できる能力がある」とは言えません。だから同時にはなりません。
そのかわり、受給期間を延ばす仕組みがあります。ハローワークは、病気・けが・妊娠・出産・育児等の理由で引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その日数だけ受給期間を延長できるとし、延長できる期間は最長で3年間と案内しています。雇用保険法20条1項も、加算された期間が4年を超えるときは4年とする、と定めています。
つまり、まず傷病手当金で療養して、働ける状態になってから基本手当を受けるという順番が制度の中に用意されています。基本手当の受給期間は原則として離職の日の翌日から1年なので、延長の手続きをしないまま療養しているとその1年が過ぎてしまいます。ここは手続きを忘れないでください。
金額と日数の見当をつけたいときは、辞めたあとの生活費を数えたい人へ:失業給付の日額と所定給付日数を出す計算機で先に計算しておくと、療養期間の後ろの見通しが立ちます。
状況別に、次にすること
休職中で、辞めるかどうかを迷っている
先に確かめるのは1つだけです。健康保険の被保険者だった期間が、切れずに1年以上あるか。ここが104条の入口で、他の条件はあとから調整できても、これだけは日付で決まってしまいます。1年に少し足りないなら、日付をずらす選択肢が生まれます。
退職日がもう決まっている
その日に出勤する予定が入っていないか、カレンダーを見てください。最終出社日と退職日は、たいてい別の日です。有給を充てていれば、退職日は休んでいる日になります。日付の作り方は退職日と最終出社日を決めたい人へ:民法627条と有給から逆算する計算機にあります。
有給が残っていて、どちらを先にするか迷う
有給を充てた日は給与が出るので、その日の傷病手当金は支給されません(差額の調整が入ります)。残日数と標準報酬月額で答えが変わるので、まず有給が何日残っているか数えたい人へ:労基法39条の付与日数と、会社が渋ってきたときの分岐で日数を確定させてください。
会社に「傷病手当金の書類を出してほしい」と言い出せない
申請書には事業主が記入する欄があります。ここで止まっている人は少なくありません。会社への連絡そのものが壁になっているなら、誰にどこまで頼めるかは運営の類型で決まります。人に頼みたい人へ:運営3類型に何を頼めるかの判定表で、自分の用件がどの行にあるかを見てください。
すでに辞めていて、辞めたあとに体調を崩した
104条は「資格を喪失した際に……支給を受けているもの」を対象にしています。辞めたあとに発症した病気・けがは、この継続給付の対象になりません。ここは正直に書きます。かわりに、基本手当の受給期間の延長や、他の制度の窓口があります。ハローワークと市区町村の窓口に、いまの状態をそのまま伝えてください。
眠れない、朝が来るのが怖い — そこまで来ているなら
ここまでお金と日付の話をしてきました。でも、この面を開いている人の何割かは、たぶんそれどころではないはずです。
食べられない。眠れない。日曜の夜に動悸がする。朝、ベッドから出られない日がある。
厚生労働省のこころの耳に、働く人向けの相談窓口がまとまっています。費用はかかりません。辞めるかどうかを決めてから相談する必要もありません。
傷病手当金の入口は「療養のため労務に服することができない」ことです。診てもらうことは、この制度を使うための最初の手順でもあります。受診は、弱さの証明ではなく手続きです。
条文も表も逃げませんから、あとから戻ってきてください。
働けない時間にも、暮らしは続いていい。
制度は、休んでいる人が生きていける形で作られています。使うのに遠慮は要りません。
次にすることは、たぶんこの順番です。
- 被保険者期間を数える — いまの健康保険に、切れずに1年以上入っているか。104条の入口はここだけです。
- 退職日に出勤しない形を作る — 最終出社日と退職日を別の日にします。日付の作り方は退職日と最終出社日を決めたい人へ:民法627条と有給から逆算する計算機に。
- 保険者に、自分のケースを聞く — 加入している健康保険の窓口。当サイトが書かない当てはめは、ここが答えを持っています。
- 働ける状態になったら、ハローワークへ — 受給期間の延長を先に済ませておくと、順番につながります。金額の見当は辞めたあとの生活費を数えたい人へ:失業給付の日額と所定給付日数を出す計算機で。
辞めることと、療養を続けることは、両立します。104条は、そのために置かれている条文です。
よくある質問
- 休職中に辞めたら、傷病手当金はそこで止まりますか。
- 止まらない形が法律に用意されています。健康保険法104条は、資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者だった人が、資格喪失の際に傷病手当金の支給を受けているときは「被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者から」その給付を受けられると定めています。協会けんぽも、被保険者期間が継続して1年以上あり、資格喪失日の前日に現に受けているか受けられる状態であれば支給を受けられる、と案内しています。ただし退職日に出勤すると、この条件から外れます。
- 退職日に、挨拶と私物の片づけだけしに行こうと思っています。
- そこは先に保険者へ確認してください。協会けんぽは「退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」と書いています。公式の記載はこの一文までで、挨拶だけ・片づけだけがどう扱われるかまでは書かれていません。当サイトはそこを推測で埋めません。取り返しがつかない種類の判断なので、行く前に加入している健康保険の窓口に聞くのがいちばん確実です。
- 傷病手当金と失業保険は、両方もらえますか。
- 同じ日について両方の条件を満たすことはできません。傷病手当金は健康保険法99条1項の「療養のため労務に服することができない」ことが前提で、雇用保険の基本手当はハローワークの説明で「いつでも就職できる能力がある」ことが前提だからです。そのかわり、病気やけがで引き続き30日以上働けないときは受給期間を延長できます。ハローワークは延長できる期間を最長3年間と案内し、雇用保険法20条1項は加算された期間が4年を超えるときは4年とすると定めています。まず傷病手当金、働ける状態になってから基本手当、という順番にできます。
- 1年6か月って、退職日から数えるんですか。
- 支給を始めた日から数えます。健康保険法99条4項は「その支給を始めた日から通算して一年六月間」と書いています。退職日が起点ではありません。そして令和4年1月1日から、この期間は暦の上での連続ではなく通算に変わりました。途中で働いて支給されない期間があれば、そのぶん後ろへ繰り越せます。厚生労働省が改正の内容を公表しています。
- 1年6か月の途中で、いったん働ける状態になりました。また悪くなったら再開できますか。
- 協会けんぽは「一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません」と書いています。これは資格喪失後の継続給付についての説明です。在職中の支給期間の通算とは別の話なので、混ざりやすいところです。判断は保険者がするので、体調が動いたときは自分で決めずに窓口へ伝えてください。